ワキガの人はどれくらいいる?日本と世界で比較

「ワキガ」という言葉を耳にすると、何となく「自分とは関係ないかも」と思う方もいれば、「もしかして自分も…?」と気になる方もいるのではないでしょうか。ワキガは医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれ、アポクリン腺から分泌される汗を皮膚上の細菌が分解することで独特のにおいを放つ状態を指します。実はこのワキガ、世界的に見ると意外なほど人口割合に差があることが分かっています。今回は、日本と世界それぞれのワキガ人口の割合を比較しながら、その背景にある遺伝子や民族差、ケアについて解説します。

ワキガとは何か

ワキガの主な原因は「アポクリン汗腺」から出る汗です。私たちの体には大きく分けてエクリン汗腺とアポクリン汗腺という2種類の汗腺が存在します。エクリン汗腺は主に体温調節を目的とした透明な汗を分泌し、においはほとんどありません。一方、アポクリン汗腺からの汗にはタンパク質や脂質、アンモニアなどが多く含まれ、それを皮膚常在菌が分解することで独特の体臭が生じます。これがいわゆるワキガと呼ばれるにおいの正体です。

アポクリン汗腺の分布や働き方は個人差が大きく、かつ遺伝的要因が強いとされています。また、思春期以降、ホルモンバランスの変化に伴ってアポクリン汗腺が活発化し、ワキガの症状が強まる人も少なくありません。

日本におけるワキガ人口の割合

日本では、ワキガの人の割合は5〜15%程度といわれることが多いです。文献や調査によって数字に幅はあるものの、「日本人全体のうち1割弱から1割強」というのが一般的な目安とされています。

この数字は、欧米などと比べると比較的低めです。理由としては、東アジア人特有の遺伝子(ABCC11遺伝子)変異により、アポクリン汗腺の働きや耳垢の性質が異なり、ワキガを引き起こす物質が他の民族よりも少ない傾向があるためと考えられています。日本では、耳垢が乾燥している人が多い一方、ワキガ体質の人は湿り気のある「湿性耳垢」であるケースが多いことが知られています。

もっとも、ワキガか否かの判断基準は個人の感じ方や周囲の反応に左右されがちです。自分で気づきにくい場合もありますし、わずかなにおいでも敏感に感じる人もいます。そのため、「5〜15%」という数字はあくまで目安であり、実際の自覚者数や周囲の認識とは必ずしも一致しないことも知っておきましょう。

世界で見るワキガの割合

(1) 欧米諸国

欧米(特にヨーロッパ系、アメリカ系)の人々は、ワキガ体質の割合がかなり高いと言われています。日本と比較すると圧倒的に多く、この背景にはやはりABCC11遺伝子の違いが存在します。欧米では、アポクリン汗腺が活発で湿性耳垢を持つ人が多数派となるため、ワキガ体質であることが「普通」という認識も少なくありません。そのため、彼らは日常的に香水やデオドラントを使い、体臭ケアを徹底する文化が根付いているのです。

(2) アフリカ諸国

アフリカ系の人々も、アポクリン汗腺が発達している傾向が強く、ワキガ体質の人が多いと報告されています。ただし、気候や食文化、そして生活様式の違いもあり、においへの価値観は地域によってまちまちです。個性的な香りを良しとする風習があったり、逆にハーブや香油などで強いにおいをカバーする習慣があったりと、多様な文化が存在します。

(3) その他の地域

東アジア(日本や中国、韓国)を含むアジア圏全般は、ワキガ体質の人が少ない傾向にあります。ただし、都市部を中心に食生活やライフスタイルが欧米化すると、皮脂分泌が増えるなどして体臭が強まりやすくなるケースも報告されています。東アジア人の遺伝的特性に加え、食習慣や生活環境などが複雑に絡み合うことで、ワキガの感じ方やケア方法も変化しているのが現状です。

遺伝子が決め手? ABCC11遺伝子の関係

ワキガの発症や耳垢の湿り気などに関与しているとされるのが、ABCC11遺伝子(エービーシーシーイレブン遺伝子)です。この遺伝子には変異型とそうでない型があり、変異型を持つとアポクリン汗腺が活発化しやすいと考えられています。

  • 変異型を持つ人:湿性耳垢で、ワキガになりやすい傾向
  • 変異型を持たない人:乾性耳垢で、ワキガ体質は少ない傾向

東アジアでは変異型を持たない人が多く、欧米・アフリカ系では変異型を持つ人の割合が高いというのが大まかな特徴です。とはいえ、これは確率論であり、変異型を持たなくてもワキガの症状を感じる人がいたり、逆に変異型を持っていても周囲があまり気にならないレベルの人もいるなど、必ずしも一概には言えません。

ワキガを巡る個人差とケア

(1) 個人の感じ方

ワキガのにおいの強さは、汗腺の数や生活習慣、肌にいる菌のバランスなどによって千差万別です。さらに、においの感じ方は主観的な要素が大きく、「自分では気づかないが、他人が気になる」というケースや「本人が強く感じる割に周囲は気にしていない」という場合もあります。

(2) ケアの方法

ワキガのケアとしては、デオドラント製品の使用やこまめなシャワーなどが一般的です。また、衣類や脇の下を常に清潔に保つ工夫も重要です。重度の場合には、皮膚科での相談を検討してみるのも良いでしょう。手術によるアポクリン腺の除去やレーザー治療など、医療的アプローチもいくつか存在します。

(3) 文化的背景

欧米では香水や制汗剤の使用がごく当たり前となっているように、体臭への意識と対策には地域や文化による違いが大きく反映されます。日本でも近年はデオドラント商品がますます豊富になり、ワキガ対策も多様化してきました。今後はさらにグローバル化が進むにつれ、体臭対策の必要性や意識も変化していくかもしれません。

まとめ

ワキガの人口割合は、日本では約5〜15%とされ、一方で欧米やアフリカ系ではより多くの割合の人が該当するといわれています。この大きな差は主に遺伝子(ABCC11遺伝子)の違いや人種的特徴に起因しますが、食生活やライフスタイルによる影響も無視できません。
ただし、あくまで統計上の数字であり、個々人の体質やにおいの感じ方は大きく異なります。自分や周りが「ワキガ体質かどうか」を気にしすぎるあまり、過度のストレスを抱えることは避けたいものです。気になるようであれば、まずはデオドラント製品や入浴・洗濯などのこまめなケアを心がけ、必要であれば皮膚科など専門の医療機関に相談すると安心でしょう。

日本と世界を比較してみると、ワキガへのアプローチや体臭ケアの文化は多様ですが、その根底には「快適に過ごしたい」「周囲に不快感を与えたくない」という共通の意識があります。ワキガかどうかに関係なく、日常のエチケットとして適切なケアを取り入れながら、自分なりの心地よい暮らしを作っていきたいですね。

(※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療行為や診断に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、専門の医療機関へご相談ください。)